東京高等裁判所 平成7年(行ケ)210号 判決 1997年11月19日
フランス国
75008・パリ、ブルヴアール・オースマン173
原告
トムソンーセエスエフ
代表者
アルレツト・ダナンシエール
訴訟代理人弁護士
山崎行造
同
伊藤嘉奈子
同
松波明博
同
日野修男
同弁理士
木村博
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
犬飼宏
同
吉村宅衛
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成3年審判第11057号事件について、平成7年3月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1979年8月3日にフランス国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和55年8月4日に出願した特願昭55-107050号を原出願とする分割出願として、昭和63年11月17日、名称を「光学的記録又は読取装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭63-291031号)をしたが、平成3年2月8日、拒絶査定を受けたので、同年5月31日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成3年審判第11057号事件として審理したうえ、平成7年3月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月2日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
平行レーザビームによって、可動ディスクに設けられた同心円状トラック又は渦巻状トラック上にデータを記録し又は当該トラック上のデータを読取る光学的記録又は読取装置であって、前記平行レーザビームを発生するレーザ発生手段と、前記平行レーザビームをディスクの半径方向に変位させるように構成された半径方向制御手段及び前記ディスクの面に対して垂直な方向に可動なレンズ手段を有すると共に前記平行レーザビームを前記トラック上に収束させるように構成された焦点合せ手段から成り前記ディスクの上方に位置決めされる組立体と、入射するレーザビームが前記可動なレンズ手段の入射瞳を完全に覆うように前記平行レーザビームを拡大するための固定無焦点光学拡大手段、及び前記レーザ発生手段と前記固定無焦点光学拡大手段との間に設けられており前記トラックで反射した光ビームを前記平行レーザビームから分離する分離器を含み、前記レーザ発生手段及び前記組立体との間に設けられた光学手段と、前記分離器により分離された前記反射した光ビームを受容する検出手段と、前記トラック上のデータの記録又は読取り中に前記組立体のみを前記半径方向に沿って直線的に移動させる移動手段とを備えており、前記レーザ発生手段、前記光学手段及び前記検出手段は、前記記録及び読取り中に不動であり、前記分離器は前記トラックにより反射されたレーザビームが平行である空間に配置されることを特徴とする光学的記録又は読取装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭51-132920号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、引用例発明の出力ビームが平行であるとする点(審決書4頁20行~5頁1行、5頁14行~6頁6行など)を除く引用例発明の認定、上記の点を除く本願発明と引用例発明との一致点及び各相違点の認定、周知の技術事項(審決書10頁16行~11頁11行)の認定は、いずれも認めるが、その余は争う。
審決は、引用例発明の上記の認定を誤って、本願発明と引用例発明との相違点を看過し(取消事由1)、相違点(1)~(3)についての判断を誤り(取消事由2~4)、本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由5)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 引用例発明の誤認(取消事由1)
本願発明は、平行レーザビームを発生するレーザ発生手農を備えており、平行レーザビームを用いて、可動ディスクに設けられた同心円状トラック又は渦巻状トラック上のデータの読取りを行うものである。すなわち、本願発明においては、レンズ手段とディスクとの間を除いて、レーザビームは発生からデータの読取りを行うまで平行である。そして、本願発明のように平行光線を用いると、ミラーMとレンズO1とがどの位置に移動しても、ビームを正確にディスク上に収束でき、データの読出しを正確に行うことができるものである。
これに対し、引用例(甲第7号証)の第8図(a)はビームの経路を破線で示しており、図面からはビームが平行であるか否かは明確でない。その第8図(a)の実施例に関して、引用例は、ビーム発生装置22が、平行なビームを出力するようなことを開示も示唆もしておらず、さらに、ビーム発生装置22から出力されたビームが、出力された後、ビームスプリッタ23、光学系24、スリット開口25、λ/4板26及びレンズ29等を通過する前後において平行であるようなことを開示も示唆もしていない。
ところで、引用例の第10図及び第11図は、光束の平行移動問題を解決するための第9図の他の実施例であり、第10図及び第11図ともに平行光束60を用いており、第10図のビームが常に平行であることは認めるが、第11図においては、平行光線は凹レンズ71によって再生レンズ65に向かって拡散されているため、凹レンズ71を通過した後、ビームスプリッタ62、λ/4板63、ミラー64及び再生レンズ65を通過したビームは平行ではなく、さらに、記録体66で反射されて信号検出器67まで達したビームも平行ではない。そして、第10図及び第11図の実施例は、いずれでも、第8図(a)の実施例に応用することができる実施例である。つまり、第8図(a)の実施例には、選択的に、第10図のように平行光線を用いた場合の光束移動の問題を解決するための構成、又は、第11図のように、拡散光線を用いた場合の光束の平行移動の問題を解決するための構成の、いずれをも採用することもできるものである。第10図の実施例を第11図の実施例に優先させて適用すべき理由は、引用例には何ら記載されていない。
したがって、第8図(a)の実施例からは、第10図又は第11図のいずれの実施例に係る光線の形状を用いるべきかは特定できるものではなく、光線の形状の特定されない引用例の第8図(a)の実施例から、本願発明におけるレーザビームの特定の形状を想起できるものではない。
以上のとおり、引用例発明の出力ビームが平行であるとする審決の認定(審決書4頁20行~5頁1行、5頁14行~6頁6行など)は、誤りであり、審決は、この点における本願発明との相違点を看過したものである。
2 相違点(1)についての判断誤り(取消事由2)
本願発明は、ディスクの面に対して垂直な方向に可動なレンズ手段を有する。このため、常にレンズの焦点をディスク上に置くことができ、ディスク上で反射されたビームは、平行な状態で読取装置まで戻ることができる。
これに対し、引用例はビームの焦点合わせのようなものは開示も示唆もしていない。焦点合わせ手段がないとすると、例えば、回転ディスクがレンズの光軸に沿った方向へ振動して、平行光線の焦点がディスク上からはずれるような場合には、ディスクから反射した光線は収束するように進行し、もはや平行光線ではなくなる。この結果、その反射ビームの読取りが安定して行えなくなる。
審決が認定するように、光学的記録又は読取装置において、レンズを記録体の面に対して垂直方向に移動可能にして焦点合わせ手段を構成すること(審決書11頁4~5行)が、従来から周知の技術事項であることは認めるが、引用例には、上記のとおり、そのような焦点合わせ手段についての開示も示唆もなされておらず、また、焦点合わせ手段を、ディスクから反射されたビームを平行な状態で読取装置まで戻すために用いるというような記載も示唆も存在しない。
したがって、そのような機能を発揮する焦点合わせ手段を引用例発明に適用することは、当業者が容易にできたこととはいえない。
3 相違点(2)についての判断誤り(取消事由3)
引用例発明においては、スリット開口によりスリット上の光分布を形成し、それを用いてトラッキング補正用の信号を得るものであるため、スリット開口は必須な構成であう。しかし、スリット開口を用いると、光ビームの一部がスリット開口によって遮られるので、不足するレーザの出力を補うため、引用例発明では大きな出力のレーザ発生源が必要となる。
これに対し、本願発明は、平行レーザビームが、可動なレンズ手段の入射瞳を完全に覆うように拡大されるような構成を必須とするため、そのようなスリット開口は不要である。本願発明においてスリット開口を用いると、それによって遮られるレーザの出力の不足を補うためスリット開口がない場合と比べて大出力のビームが必要となり、無駄であるだけでなく、スリット開口によってレーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆えなくなるので、レーザビームを収束してもその出力は不足してしまい、本願発明に係る光学的読取装置が適切に機能しなくなるという問題が生じてしまう。
審決が認定するように、光学的記録又は読取装置において、レーザビームをレーザ発生手段からレンズまで導く光学手段として、スリット開口を含まないものを使用すること(審決書10頁16行~11頁3行)が、従来から周知の技術事項であることは認めるが、引用例発明においては、上記のとおり、スリット開口は必須な構成であり、これを取り除くことは困難である。
したがって、上記周知技術においてスリット開口を用いないものがあるからといって、それに基づいて、引用例発明からスリット開口を取り除いて本願発明を想到することは、当業者が容易にできるものではない。
4 相違点(3)についての判断誤り(取消事由4)
本願発明は、固定無焦点光学拡大手段を備えており、それにより入射する平行レーザビームが可動なレンズ手段の入射瞳を完全に覆うように、その平行レーザビームを拡大する。この結果、レンズが移動した場合のディスク上の位置にかかわらず、同一のレンズの開口数を得ることができ、また、ビーム発生源からのレーザビームのエネルギーを有効に活用することができる。
これに対し、引用例発明においては、レーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うような構成が開示も示唆もされていないだけでなく、スリット開口25を有効に通過するように光学系によってビームの分布が変換されるため、レーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うような構成を採用することは困難である。このようにレーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆わない場合、例えば、光源Sから平行でないビームLBが出力され、レンズの直径よりも拡大されてそのレンズに入射すると、レンズに入射されない光の部分が損失となる。その結果、レンズに入射した部分のみがディスクDから反射されて読取装置に入力されても、その損失のため、ディスクの読取りの位置によってディスクからの反射信号の大きさが変動し、正確な読取りが行えないことになる。そして、検出エネルギーの損失による変動の影響を小さくするために、より出力の大きなレーザ源が必要となってしまう。
審決が認定するように、光学的記録又は読取装置において、入射するレーザビームが前記レンズ手段の入射瞳を完全に覆うように前記レーザビームを拡大する光学拡大手段を設けること(審決書11頁6~8行)が、従来から周知の技術事項であることは認めるが、引用例発明においては、前記のとおり、スリット開口は必須な構成であり、そのスリット開口の存在により、レーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うことが困難である。
したがって、レーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うことが周知技術であるからといって、それに基づいて、引用例発明に対し、そのような技術を適用することは、当業者が容易にできるものではない。
以上のとおり、審決の相違点(1)~(3)に関する判断(審決書11頁11~18行)は、すべて誤りである。
5 本願発明の顕著な作用効果の看過(取消事由5)
本願発明は、光学的記録又は読取装置に関するものであり、光学的読取装置のみからなる構成がこれに含まれることは認める。しかし、本願発明は、光学的記録と光学的読取との共通する構成要素を使用し、新たな構成の追加又は一部の構成の取換えをすることなく、両方の機能を発揮できる点に顕著な作用効果を有するものである。
つまり、本願発明が光学的記録装置である場合には、その光学記録装置は新たな構成の追加又は一部の構成の取換えをすることなく光学的読取装置としても用いることができ、また、本願発明が光学的読取装置である場合には、その光学読取装置は新たな構成の追加又は一部の構成の取換えをすることなく光学的記録装置としても用いることができる。
例えば、本願明細書には、記録用平行レーザビーム80の光路は、偏光レーザ8と、第1のミラーm1と、音響光学的ビーム変調器12と、半波長板13と、第2のミラーm2との構成によって形成され、ビーム80は拡大手段1によって幅が拡大され、ディスク5上で反射されて拡大手段1に戻された後に更に複屈折分離器17に戻され、そして音響光学的反射器18によって反射されてビーム100となって受光セル10に達するものであり(甲第6号証7頁7欄39行~8欄12行)、一方、読取用平行レーザビーム90の光路は、偏光レーザ9と、ミラーm3と、音響光学的反射器18との構成によって形成され、ビーム90は拡大手段1によってビーム幅が拡大され、ディスク5上で反射されて拡大手段1に戻された後に更に複屈折分離器17に戻され、その複屈折分離器17によって偏向されてビーム110に沿って受光セルに達するものである(同8欄14~24行)と記載されている。
上記の実施例のように、拡大手段1、複屈折分離器17及びヘッド2は、光学的記録及び読取の両方の機能の共通の構成要素となっており、本願発明が光学的記録及び読取のそれぞれの機能を実行する際に、両方の機能に共通する構成要素をそれぞれの機能に応じて使用し、新たな構成の追加又は一部の構成の取換えをすることなくそれぞれの機能を発揮できるものであることが明らかである。また、本願明細書の記載は、すべて記録読取の双方に通ずる発明の目的・構成・効果について述べている。
これに対し、引用例は単なる光学的読取装置を開示するのみであり、本願発明のように光学的記録装置及び光学的記録読取装置のそれぞれが、光学的読取装置及び光学的記録装置に用いることができることは示唆もされていないものである。
したがって、審決は、本願発明の有する上記の顕著な作用効果を看過して進歩性の判断を誤ったものであり、この点に関する審決の判断(審決書11頁19行~12頁2行)もまた誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
引用例発明に関して、引用例の第10図に示された構成のビームが出力から入射まで常に平行であることは、原告も認めるところであり、この第10図の構成は、第8図(a)に示されたものにおいて、トラッキング補正において発生する問題を解決することを説明するためのものであり、第8図(a)に示されたものと直接に関連性があるものであるから、第10図の構成に基づいて第8図(a)に示されたものにおけるビーム形状を推定し得ることは当然である。また、第8図(a)には、光学系24とヘッド17との間に、平行なビームが図示されている。
しかも、レーザ発生手段、光学手段及び検出手段(固定部分)を不動とし、半径方向制御手段と焦点合わせ手段を有する組立体(可動部分)のみを移動して、可動部分の重量を軽くするように構成した光学的記録又は読取装置において、光学的特性を考慮して、固定部分から可動部分に向けて案内するビームを平行ビームとすることは、従来から普通に採用されている技術的事項である(乙第5~第7号証)。
したがって、第8図(a)の実施例における光学系を通過したビームは、平行ビームであると認定できる。審決の引用例発明の認定に誤りはなく、相違点の看過もない。
2 取消事由2について
引用例発明は、信号再生装置においてレーザビームをレンズにより記録体の面に焦点合わせするものであり、また、光学的記録又は読取装置において、レンズを記録体の面に対して垂直方向に移動可能にして焦点合わせ手段を構成することが従来から周知の技術事項であることは、原告も認めるところであるから、この周知の技術事項を引用例発明に適用することは、当業者が容易にできたことである。
したがって、審決の相違点(1)の判断に誤りはない。
3 取消事由3について
レーザビームをレーザ発生手段からレンズまで導く光学手段として、スリット開口を用いないものを採用することが従来から周知の技術事項であることは、原告も認めるところであるから、引用例発明において、その光学手段としてスリット開口を用いないものを採用することは、前記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたことである。
したがって、審決の相違点(2)の判断に誤りはない。
4 取消事由4について
光学的記録又は読取装置において、入射するレーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うようにレーザビームを拡大する光学拡大手段を設けることが従来から周知の技術事項であることは、原告も認めるところであるから、引用例発明において、前示のとおり、スリット開口を用いないものを採用し、上記周知の技術事項に基づいて、入射するレーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うようにレーザビームを拡大することは、当業者が容易に想到することができたことである。
したがって、審決の相違点(3)の判断に誤りはない。
5 取消事由5について
本願発明が、光学的読取装置のみからなる場合を含むものであることは、原告も自認するところであるから、本願発明に係る光学装置は、必ずしも光学的読取装置及び光学的記録装置の両方の機能を発揮するものではない。
したがって、作用効果に関する審決の容易性・進歩性の判断(審決書11頁19行~12頁2行)に、誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例発明の誤認)について
本願発明の要旨の認定、引用例発明の出力ビームが平行であるとする点(審決書4頁20行~5頁1行、5頁14行~6頁6行など)を除く引用例発明の認定、すなわち、引用例発明が、「ビーム発生源(22)から出射したビームが、偏光ビームスプリッター(23)、光学系(24)、スリット開口(25)、及びλ/4板(26)を通過した後、記録体(20)の半径方向に移動するヘッド(17)に入射して、前記ヘッド(17)に設けられたミラー(27)によって下方へ向けられ、更にレンズ(29)により前記記録体(20)上を照射して、前記ヘッド(17)が前記記録体(20)の半径方向のどの位置にあっても、正常に信号を再生し得るように構成されて」(審決書5頁2~10行)いることは、当事者間に争いがない。
まず、引用例(甲第7号証)第8図(a)の実施例のビーム発生源から発生するビームについて、引用例には、ビーム発生源「22はHe-Neレーザーの如きビーム発生源で、直線偏光ビームを発するビーム発生源であることが望ましい。」(同号証5頁右下欄16行~6頁左上欄2行)との記載があるが、この出力されたビームが平行ビームであることの明記はない。
しかし、第8図(a)の光学系に代わる光学系を開示している第10図及び第11図の実施例において、そのビーム発生源から発生するビームが平行であることについては、当事者間に争いがない。また、本願明細書(甲第2~第6号証)には、「既に知られている通り、第1のレーザ発生器及び第2のレーザ発生器は、例えばヘリウムネオンガスレーザ源からなる。レーザは、非常に小さい断面積を持つ偏光平行レーザビームを供給する。」(甲第6号証3頁5欄31~35行)と記載され、この記載によれば、引用例発明において例示されたようなHe-Neレーザ源からの出力ビームは、平行ビームが一般的であることを示している。さらに、特開昭50-16423号公報(乙第7号証)及び特開昭53-116805号公報(乙第8号証)によれば、光学的ディスクの情報をレーザビームを用いて記録又は再生する装置に関して、ビーム発生源から出力されるレーザービームは、一般的に平行ビームであると認められる。
以上のことを総合すると、引用例第8図(a)の実施例のビーム発生源から発生するビームは、平行ビームであるものと認められる。
そして、前示引用例発明の構成によれば、ビーム発生源22から出射された平行ビームは、まず偏光ビームスプリッター23を通って光学系24に入射し、光学系24を通過した後は、スリット開口25及びλ/4板26を通過して、ヘッド17に設けられたミラー27によって下方へ向けられ、レンズ29により前記記録体20上を照射することになるが、引用例の明細書の記載に照らして、偏光ビームスプリッター23の通過や、スリット開口25及びλ/4板26の通過、ミラー27の反射によってビームの平行性が失われるものでないことは明らかであるから、発生した平行ビームが、データ読取りまで平行ビームであるか否かは、光学系24が、無焦点レンズとして機能するか、拡散レンズとして機能するかによって定まるものと認められる。
ところで、引用例(甲第7号証)には、その第9図に関して、「ビーム54はミラー52で反射された後、レンズの中心を通り記録体50に当る。・・・記録体50でビーム54は反射され、再びレンズ51の中心を通り入射時と同じ経路をたどる。またビーム54の隣のビーム55は、ミラー52で反射された後、レンズ51で屈折し記録体50により、記録体50に入射すう角度に等しい角度で反射され、再びレンズ51を通り、レンズ51に入射時に光軸となす角と同じ角度をなしてミラー52に向いミラー52で反射され入射時と同じ方向に向いビーム54に対称な経路をとり、第9図で56として示したビームとなる。即ち、ビーム54とビーム55の距離をdとするとビーム55は記録体で反射された後は2dの平行移動がある。」(同号証7頁右上欄2行~左下欄1行)、「以上の説明の如く、信号トラツクがレンズの真下を常に走行していなくてもミラーを補正信号に応じて回転させることによりビームにより信号トラツクを追いかけて正規の信号を拾う事ができるものである。」(同7頁右下欄13行~8頁左上欄1行)と記載されている。
この記載によれば、引用例の第9図は、第8図(a)の信号再生装置において、トラッキング補正における光線の平行移動の問題を解決できることを説明するものであり、第8図(a)のミラー27に相当する回転ミラー52に入射するビーム54、55について、平行ビームを想定していることが認められるから、第8図(a)においても、第9図の入射ビーム54、55に相当するミラー27に入射するスリット開口を通過するビームは、平行ビームであると認めるのが相当である。
また、上記第9図に続いて、第8図(a)の光学系に代わる光学系を開示している第10図の実施例において、そのビーム発生源から発生するビームが平行であり、その後の光学系においても終始ビームが平行であることと、第11図の実施例に至って、出力された平行ビームが光学系により拡散されて利用される形態のものが示されることは、当事者間に争いがなく、このことに照らしても、基本となる第8図(a)の実施例では、平行に出力されたビームを光学系により特に変更しない、すなわち拡散ビームとしない形態が示されでいるものと認められる。
したがって、引用例の第8図(a)のビーム発生源から発生した平行ビームは、光学系24を経由しても平行なものと認められ、平行ビームとして記録体上を照射するものというべきである。
原告は、第8図(a)からは、第10図又は第11図のいずれの実施例に係る光線の形状を用いるべきかは特定できるものではないと主張する。
しかし、前示のとおり、第8図(a)のレーザビームは、発生からデータ読取りまで平行ビームであると認められるし、仮に、このような特定をすることが困難であるとしても、引用例に、第10図に開示された平行ビームを利用する信号再生装置と、第11図に開示された拡散ビームを利用する信号再生装置との双方が実施例として示されていることは、当事者間に争いがなく、当業者であるならば、当然、引用例からそれぞれの技術思想を把握できるものである。そうずると、審決は、その一方である平行ビームを利用する信号再生装置を選択して認定し、これに基づいて本願発明が容易に想到できるとしたものであるから、いずれにしても、第8図(a)のレーザビームが平行ビームであるとした審決の認定(審決書4頁20行~5頁1行、5頁14行~6頁6行など)に誤りはない。原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(相違点(1)の判断の誤り)について
ディスク上にデータを記録し又は前記ディスク上のデータを読取る光学的記録又は読取装置において、レーザビームをディスク上に収束させる「レンズ手段を前記ディスクの面に対して垂直な方向に移動可能にして焦点合せ手段を設ける」(審決書11頁4~5行)ことが周知の技術事項であることは、当事者間に争いがない。
また、引用例発明が、前示のとおり、ビーム発生源から出射したビームを記録体の半径方向に移動するヘッドに入射して、そこに設けられたミラーによって下方へ向けられ、更にレンズにより前記記録体上を照射して、前記ヘッドが前記記録体の半径方向のどの位置にあっても、正常に信号を再生し得るように構成された光学的読取装置であり、垂直な方向に不動なレンズ手段を有し焦点合わせ手段を備えていないこと(相違点(1))も、当事者間に争いがない。
そうすると、引用例発明の光学的読取装置において、半径方向に移動すうヘッドに設けられた垂直方向に不動なレンズ手段に替えて、上記のとおり周知とされる、レンズ手段をディスクの面に対して垂直な方向に移動可能にして焦点合わせ手段を設けるという技術を適用することは、当業者にとって、格別の創意工夫を要せずにできる程度のことであるというべきである。
原告は、引用例にはそのような焦点合わせ手段の開示も示唆もないと主張するが、引用例発明においても、正常に信号を再生するために、照射されたビームの焦点を記録体上に正確に合わせなければならないことは、当然の技術常識といえるから、この観点から、上記焦点合わせ手段を設けることが格別困難であるとはいえず、原告の上記主張には理由がない。
また、原告は、引用例発明には、焦点合わせ手段を、ディスクから反射されたビームを平行な状態で読取装置まで戻すために用いるというような記載も示唆も存在しないと主張するが、前示のとおり、引用例発明は平行ビームを利用するものであるから、ディスクから反射され、入射時とは逆に読取装置に向かって焦点合わせ手段を通過するビームもまた平行ビームとなることは当然であり、原告の上記主張はその前提を欠くから採用できない。
3 取消事由3(相違点(2)の判断の誤り)について
光学的記録又は読取装置において、レーザビームをレーザ発生手段からレンズまで導く「光学手段としてスリット開口を含まないものを使用」(審決書11頁2~3行)することが周知の技術事項であることは、当事者間に争いがない。
また、引用例発明が、本願発明と異なり光学手段の中にスリット開口を有し(相違点(2))、このスリット開口がトラッキング補正用の信号を得るためのものであることも、当事者間に争いがない。
そうすると、引用例発明において、トラッキング補正用の信号を得ることを特に問題としなければ、当業者にとって、上記周知技術を適用して、光学手段としてスリット開口を含まないものを使用することに格別の困難性はないものといわなければならない。また、トラッキング補正手段としては、引用例(甲第7号証)において、従来技術として、「1本のビームを回折格子により3本のビームに分け記録体を照射し、そのうちの2本をトラツキング用ビームとし、残りの1本を信号再生用とし」(同号証1頁右欄8~11行)と記載されるように、スリット開口以外の構成も従前がら公知であったものと認められるから、当業者が、トラッキング補正用の信号を得るために、スリット開口以外の構成を採用することも容易であったものと認められ、この点からも、引用例発明においてスリット開口を取り除くことに格別の困難性はないものということができる。
原告は、引用例発明においてスリット開口は必須の構成であるから、引用例発明からこれを取り除くことは、当業者にとって容易でないと主張する。
しかし、引用例発明においてスリット開口は、前示のとおり、トラッキング補正用の信号を得るためには必須の構成であるが、本願発明と同様のディスク上のデータを読取る光学的読取装置としては、必須の構成要素でないことは明らかであるから、当業者が、引用例発明からスリット開口という工夫を取り除いて従来の光学的読取装置を想到することは、容易であるというべきである。原告の上記主張は採用できない。
4 取消事由4(相違点(3)の判断の誤り)について
光学的記録又は読取装置において、「入射するレーザビームが前記レンズ手段の入射瞳を完全に覆うように前記レーザビームを拡大する光学拡大手段を設けること」(審決書11頁6~8行)が、周知の技術事項であることは、当事者間に争いがない。
また、引用例発明において、レンズ手段に入射するレーザビームが、本願発明と異なり入射瞳を完全に覆うものでなく、スリット開口を有効に通過するように拡大される(相違点(3))ことも、当事者間に争いがない。
そうすると、引用例発明について、上記の光学的読取装置における周知技術を適用して、入射するレーザビームが、ディスク上に収束するレンズ手段の入射瞳を完全に覆うように拡大する光学拡大手段を設けることは、当業者にとって容易になしうることが明らかである。
原告は、引用例発明には、スリット開口が必須な構成であり、そのスリット開口の存在により、レーザビームがレンズ手段の入射瞳を完全に覆うような構成を採用することは困難であると主張する。
しかし、前示のとおり、引用例発明においてスリット開口は、ディスク上のデータを読取る光学的読取装置として必須の構成要素でないから、当業者がこれを取り除くことに格別の困難性はなく、その結果、上記周知技術を採用することに何らの支障も認められない。原告の主張はその前提を欠くから、採用できない。
そうすると、審決の相違点(1)~(3)に関する判断(審決書11頁11~18行)は、すべて正当であるといえる。
5 取消事由5(本願発明の顕著な作用効果の看過)について
以上のとおり、審決における引用例発明の認定及び相違点(1)~(3)の判断に誤りはなく、引用例発明の本願発明との相違点(1)~(3)に係る構成について、前示周知の技術事項を適用することにより、本願発明と同様の作用効果を奏するものに到るであろうことは、前示の認定に照らして明らかであり、この点に関する審決の判断(審決書11頁19行~12頁2行)に誤りはない。
原告は、本願発明の「光学的記録又は読取装置」においては、光学的記録と光学的読取とは共通する構成要素を使用し、新たな構成の追加又は一部の構成の取換えをすることなく、両方の機能を発揮できる点に顕著な作用効果を有すると主張する。
しかし、本願発明は、前示発明の要旨の認定から明らかなように、光学的読取装置のみからなる場合を含むものであり、原告も、本願発明が光学的読取装置のみからなる構成を含むことは認めるから、仮に、本願発明が原告の主張するように光学的記録と光学的読取とで共通する構成要素を使用し、両方の機能を発揮できるという作用効果を有するとしても、その効果は、本願発明が光学的読取装置のみからなる場合に有するものでないことは明らかであるから、上記の効果は、本願発明の要旨に基づき常に生ずる効果ということはできない。したがって、原告の上記主張は失当というべきである。
6 以上のとおり、原告の取消事由の主張はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成3年審判第11057号
審決
フランス国 75008・パリ、ブルヴアール・オースマン、173
請求人 トムソン-セエスエフ
東京都新宿区新宿1丁目1番14号 山田ビル 川口国際特許事務所
代理人弁理士 川口義雄
昭和63年特許願第291031号「光学的記録又は読取装置」拒絶査定に対する審判事件(平成5年3月16日出願公告、特公平 5-19211)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
(手続の経緯)
本願は、昭和55年8月4日(優先権主張1979年8月3日、フランス国)に出願した特願昭55-107050号の一部を昭和63年11月17日に分割して新たな特許出願としたものであって、当審において平成5年3月16日に出願公告がなされたところ、キヤノン株式会社、糸賀道也、頭師教文、及び神田厚からそれぞれ特許異議の申立があったものである。
(本願発明の要旨)
本願発明の要旨は、上記出願公告後の平成6年4月28日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「平行レーザビームによって、可動ディスクに設けられた同心円状トラック又は渦巻状トラック上にデータを記録し又は当該トラック上のデータを読取る光学的記録又は読取装置であって、前記平行レーザビームを発生するレーザ発生手段と、前記平行レーザビームをディスクの半径方向に変位させるように構成された半径方向制御手段及び前記ディスクの面に対して垂直な方向に可動なレンズ手段を有すると共に前記平行レーザビームを前記トラック上に収束させるように構成された焦点合せ手段から成り前記ディスクの上方に位置決めされる組立体と、入射するレーザビームが前記可動なレンズ手段の入射瞳を完全に覆うように前記平行レーザビームを拡大するための固定無焦点光学拡大手段、及び前記レーザ発生手段と前記固定無焦点光学拡大手段との間に設けられており前記トラックで反射した光ビームを前記平行レーザビームから分離する分離器を含み、前記レーザ発生手段及び前記組立体との間に設けられた光学手段と、前記分離器により分離された前記反射した光ビームを受容する検出手段と、前記トラック上のデータの記録又は読取り中に前記組立体のみを前記半径方向に沿って直線的に移動させる移動手段とを備えており、前記レーザ発生手段、前記光学手段及び前記検出手段は、前記記録及び読取り中に不動であり、前記分離器は前記トラックにより反射されたレーザビームが平行である空間に配置されることを特徴とする光学的記録又は読取装置。」
(引用例)
これに対して、特許異議申立人糸賀道也が提示した甲第1号証刊行物:特開昭51-132920号公報(以下、引用例という。)には、ビデオ・ディスクの如き高密度信号記録体に含まれる信号を、光等のビームにより信号記録体に対し非接触で再生、復調する信号再生装置に関することが開示されている。
この信号再生装置について更に詳細にみれば、ビーム発生源(22)としてHe-Neレーザーを使用するものであり(第5頁右下欄末行~第6頁左上欄2行)、またレーザ等から平行光束(60)を発生する実施例も記載されている(第8頁左上欄4行~6行、及び同頁右上欄12行~13行)から、前記信号再生装置において、ビーム発生源(22)から発生するビームは平行ビームであると認められる。
そして、ビーム発生源(22)から出射したビームが、偏光ビームスプリッター(23)、光学系(24)、スリット開口(25)、及びλ/4板(26)を通過した後、記録体(20)の半径方向に移動するヘッド(17)に入射して、前記ヘッド(17)に設けられたミラー(27)によって下方へ向けられ、更にレンズ(29)により前記記録体(20)上を照射して、前記ヘッド(17)が前記記録体(20)の半径方向のどの位置にあっても、正常に信号を再生し得るように構成されており(第6頁左上欄~同頁左下欄)、またレーザ等から発せられた平行光束(60)が、矩形マスク(61)、偏光ビームスプリッター(62)、λ/4板(63)を通過した後、駆動ミラー(64)で反射され平行光束のままで再生レンズ(65)に入射する実施例も記載されている(第8頁左上欄4行~9行、及び第10図)から、前記信号再生装置において、光学系(24)を通過したビームは平行ビームであると認められる。
さらに、光学系(24)における入射ビーム(ビーム発生源22から発生したビーム)又は出射ビームは、前述のとおり共に平行ビームであると認められるから、前記光学系(24)は無焦点のものであり、また前記ビーム発生源(22)と光学系(24)との間に挿入された偏光ビームスプリッター(23)は、前記記録体(20)により反射されたビームが平行である空間に配置されていることになる。
してみれば、前記引用例には、次の事項が記載されていることになる。即ち、
「平行ビームによって、可動記録体に設けられた同心円状トラック又は螺線状トラック上のデータを読取る光学的信号再生装置であって、前記平行ビームを発生するビーム発生源と、前記平行ビームを記録体の半径方向に変位させるように構成されたミラー及び前記ディスクの面に対して垂直な方向に不動なレンズを有すると共に、前記平行ビームを前記トラック上に収束させスリット開口の回折パターンで照射するように構成されて成り、前記記録体の上方に位置決めされるヘッドと、スリット開口を有効に通過するように前記平行ビームを拡大するための固定無焦点光学系、前記固定無焦点光学系と前記ヘッドとの間に設けられたスリット開口、及び前記ビーム発生源と前記固定無焦点光学系との間に設けられており前記トラックで反射したビームを前記平行ビームから分離する偏光ビームスプリッタを含み、前記ビーム発生源及び前記ヘッドとの間に設けられた光学手段と、前記偏光ビームスプリッタにより分離された前記反射したビームを受容する受光素子と、前記トラック上のデータの読取り中に前記ヘッドのみを前記半径方向に沿って直線的に移動させるガイド棒、送りネジ及び駆動装置から成るヘッド移動手段とを備えており、前記ビーム発生源、前記光学手段及び前記受光素子は、前記読取り中に不動であり、前記偏光ビームスプリッタは前記トラックにより反射されたビームが平行である空間に配置される光学的信号再生装置。」
(本願発明と引用例開示事項との対比)
本願発明と引用例に開示されたものとを比較すると、引用例に開示されたのものにおける「ビーム」、「記録体」、「螺線状トラック」、「信号再生装置」、「ビーム発生源」、「ミラー」、「レンズ」、「ヘッド」、「光学系」、「偏光ビームスプリッタ」、「受光素子」、及び「ヘッド移動手段」は、それぞれ本願発明における「レーザビーム又は光ビーム」、「ディスク」、「渦巻状トラック」、「読取装置」、「レーザ発生手段」、「半径方向制御手段」、「レンズ手段」、「組立体」、「無焦点光学拡大手段」、「分離器」、「検出手段」、及び「移動手段」に相当するものと認められるから、両者は、
「平行レーザビームによって、可動ディスクに設けられた同心円状トラック又は渦巻状トラック上のデータを読取る光学的読取装置であって、前記平行レーザビームを発生するレーザ発生手段と、前記平行レーザビームをディスクの半径方向に変位させるように構成された半径方向制御手段及び前記ディスクの面に対するレンズ手段を有すると共に前記平行レーザビームを前記トラック上に収束させるように構成されて成り前記ディスクの上方に位置決めされる組立体と、前記平行レーザビームを拡大するための固定無焦点光学拡大手段、及び前記レーザ発生手段と前記固定無焦点光学拡大手段との間に設けられており前記トラックで反射した光ビームを前記平行レーザビームから分離する分離器を含み、前記レーザ発生手段及び前記組立体との間に設けられた光学手段と、前記分離器により分離された前記反射した光ビームを受容する検出手段と、前記トラック上のデータの読取り中に前記組立体のみを前記半径方向に沿って直線的に移動させる移動手段とを備えており、前記レーザ発生手段、前記光学手段及び前記検出手段は、前記読取り中に不動であり、前記分離器は前記トラックにより反射されたレーザビームが平行である空間に配置される光学的読取装置。」
である点において一致するが、本願発明は、次の各点において前記引用例に開示されたものと相違する。
相違点
(1) 組立体が、本願発明においては、ディスクの面に対して垂直な方向に可動なレンズ手段を有すると共に、焦点合せ手段を備えているのに対して、引用例に記載されたものでは、垂直な方向に不動なレンズ手段を有し焦点合せ手段を備えていないこと。
(2) 本願発明においては、光学手段の中にスリット開口が含まれていないのに対して、引用例に記載されたものでは、スリット開口が含まれていること。
(3) レンズ手段に入射するレーザビームが、本願発明においては、レンズ手段の入射瞳を完全に覆うように拡大されるのに対して、引用例に記載されたものでは、スリット開口を有効に通過するように拡大されること。
(当審の判断)
そこで、前記相違点(1)~(3)について検討する。
レーザビームを発生するレーザ発生手段、前記レーザビームを通過させる光学手段、前記レーザビームをディスク上に収束させるレンズ手段、及び前記ディスクで反射したレーザビームを受容する検出手段からなり、前記ディスク上にデータを記録し又は前記ディスク上のデータを読取る光学的記録又は読取装置において、前記光学手段としてスリット開口を含まないものを使用し、且つ、前記レンズ手段を前記ディスクの面に対して垂直な方向に移動可能にして焦点合せ手段を設けると共に、入射するレーザビームが前記レンズ手段の入射瞳を完全に覆うように前記レーザビームを拡大する光学拡大手段を設けることは、従来から周知の技術事項であり(例えば、特開昭50-57456号公報、特開昭50-2415号公報、及び特開昭51-109851号公報参照)、また、引用例に記載されたものにおいても、レーザビームをレンズ手段(レンズ29)によりディスク(記録体20)面上に焦点合せされているものであって、前記周知の技術事項を引用例に記載されたものに適用するに当たって格別の困難性は認められないから、上記相違点(1)~(3)は、前記周知の技術事項に基づいて容易に想到し得たことである。
そして、本願発明を全体的にみても、上記引用例に開示された事項及び上記周知の技術事項から当業者が当然予測できる範囲を超える格別の作用・効果を見出すことができない。
(むすび)
以上のとおりであって、本願発明は、引用例に開示された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年3月15日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人 のため出訴期間として90日を附加する。